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特集「M&Aを正しく活用する時代」

第2講 今、うちの会社はいくらなのか? 中小企業の企業価値評価とバリュエーションの基本

M&Aを正しく活用する時代 第2講

今、うちの会社はいくらなのか?
中小企業の企業価値評価とバリュエーションの基本

非上場会社にも、価格があります。 ただし、その価格は、証券取引所で毎日表示される上場会社の株価とは異なり、M&A、事業承継、資本提携、第三者割当増資、相続、株式譲渡などの場面で、初めて具体的な論点になります。

会社の値段を知ることは、単に「いくらで売れるか」を知ることではありません。 自社の成長余地、投資家から見た魅力、買い手から見たリスク、オーナー経営者の資産形成、将来の資本政策を考えるための出発点です。

多くの中小企業経営者は、自社の売上や利益は把握していても、「会社そのものの値段」を明確に把握していません。 しかし、M&Aや資本提携では、買い手企業や投資家は必ず企業価値を見ます。

自社の価格を知らないまま交渉に入ることは、地図を持たずに航海に出るようなものです。 会社を売る場合も、外部資本を受け入れる場合も、まず自社の企業価値を理解することが重要です。

1. 非上場会社にも値段がある

上場会社の株式には、証券取引所で株価がつきます。 株価は、売り手と買い手の需給によって日々変動し、誰でも確認できます。

一方、非上場会社の場合、株式に譲渡制限が付いていることが多く、日常的に株式が売買されることはほとんどありません。 そのため、経営者自身も、株主も、自社株式の価値を知らないまま経営を続けていることが少なくありません。

しかし、非上場会社にも価値があります。 会社には、顧客、従業員、技術、ノウハウ、ブランド、利益、キャッシュフロー、純資産、将来の成長可能性があるからです。

経営者への問い: 今、御社に投資したいという企業が現れた場合、御社はいくらの株価で交渉を始めますか。 その価格を、買い手企業や投資家に説明できますか。

2. 企業価値評価が必要になる場面

非上場会社のバリュエーションが必要になる代表的な場面は、次のような場合です。

第三者割当増資

会社が新株を発行し、投資家や事業会社から成長資金を受け入れる場合です。

株式譲渡・M&A

オーナー株主が保有株式を買い手企業へ譲渡する場合です。

相続・事業承継

株主に相続が発生した場合や、事前に相続税対策・承継対策を行う場合です。

税務目的の株式評価、M&Aの取引価格、第三者割当増資の発行価格は、同じ「株価」という言葉で語られても、目的と考え方が異なります。

税務上の評価は、相続税や贈与税、同族会社間取引などで問題になります。 一方、M&Aや資本提携の価格は、売り手と買い手の交渉によって決まります。 ただし、自由に決められるからといって、根拠のない価格でよいわけではありません。

重要: M&Aや第三者割当増資では、税務評価、会社法上の公正性、既存株主への説明、買い手・投資家への説明、金融機関への説明が関係します。 必ず税理士、公認会計士、弁護士、M&Aアドバイザーと連携して検討してください。

特に、投資企業が上場会社である場合や、買い手企業が取締役会・株主・金融機関へ説明する必要がある場合、企業価値評価の根拠は重要になります。 投資を受ける側も、あまりに根拠の薄い高値を主張すれば、交渉そのものが進まなくなることがあります。

3. 事業価値・企業価値・株主価値の違い

バリュエーションを理解するには、まず「事業価値」「企業価値」「株主価値」の違いを押さえる必要があります。 この3つを混同すると、M&Aの価格交渉で大きな誤解が生じます。

種類 意味 実務上の見方
事業価値 本業が将来生み出す価値 営業利益、EBITDA、キャッシュフロー、成長性から見ます。
企業価値 事業価値に、非事業用資産などを加えた会社全体の価値 本業以外の資産、余剰現預金、不動産、有価証券なども考慮します。
株主価値 企業価値から有利子負債などを差し引いた、株主に帰属する価値 株式譲渡価格の基礎になります。
基本式:
企業価値 = 事業価値 + 非事業用資産価値
株主価値 = 企業価値 - 有利子負債等
株主価値 = 事業価値 + 非事業用資産価値 - 有利子負債等

買い手企業や投資家がまず見るのは、会社が将来どれだけ稼げるかです。 しかし、株式譲渡の価格では、借入金、余剰現預金、非事業用不動産、投資有価証券、役員貸付金、退職金、簿外債務なども価格に影響します。

そのため、「利益が出ているから高く売れる」と単純に考えるのは危険です。 同時に、「純資産が少ないから価値が低い」と決めつけるのも誤りです。 企業価値評価では、過去の数字と将来の収益力を両方見ます。

4. 中小企業M&Aで使われる主なバリュエーション手法

非上場会社のバリュエーションには、複数の方法があります。 実務では、1つの方法だけで価格を決めるのではなく、会社の業種、規模、成長性、財務状態、M&Aの目的に応じて、複数の方法を組み合わせて考えます。

手法 概要 向いている場面
類似会社比較法 類似する上場会社や過去取引の倍率を参考にする方法 類似会社や取引事例がある業種
回収期間法 投資金額を何年で回収できるかを見る方法 買い手側・投資家側の投資判断
純資産法 時価純資産を基礎に評価する方法 資産を多く持つ会社、事業承継型M&A
DCF法 将来キャッシュフローを現在価値に割り引く方法 成長企業M&A、資本提携、将来価値を評価したい場合
内部利益率法 投資によって得られる利回りを判断する方法 投資家が投資適格性を判断する場面

中小企業M&Aでは、時価純資産に営業利益やEBITDAをもとにしたのれんを加算する方法が使われることがあります。 しかし、それだけでは会社の将来成長力を十分に反映できない場合があります。

特に、成長企業M&Aや資本提携では、過去の純資産だけでなく、将来のキャッシュフロー、成長率、投資家とのシナジー、PMIによる価値向上を織り込む必要があります。

5. 純資産法とのれん代だけでは、成長企業の価値を測れない

日本の中小企業M&Aでは、「時価純資産+のれん代」という考え方がよく使われます。 歴史のある会社、土地や建物を保有する会社、製造設備を持つ会社などでは、時価純資産を基礎にする評価は一定の合理性があります。

しかし、成長企業M&Aでは、この方法だけでは不十分です。 なぜなら、成長企業の価値は、現在の純資産だけでなく、将来どれだけ利益とキャッシュフローを生み出すかに大きく左右されるからです。

純資産法の強み

資産・負債を基礎にするため、説明しやすく、歴史ある会社や資産保有会社に向いています。

純資産法の限界

将来の成長性、ブランド、顧客基盤、組織力、シナジーを十分に反映しにくいことがあります。

成長企業M&Aの視点

将来キャッシュフロー、成長率、投資家とのシナジー、PMI後の価値向上まで見ます。

のれん代も重要です。 ただし、のれん代は単に営業利益の何か月分という機械的なものではありません。 買い手企業が、その会社を買収した後にどのようなシナジーを生み出せるか、どれだけ投資回収できるかによって変わります。

したがって、売り手企業や資本提携を受ける企業は、自社の将来性を買い手や投資家に説明できるようにしておく必要があります。 事業計画、成長戦略、KPI、顧客基盤、組織体制、利益改善余地を整理することが、バリュエーションを高める準備になります。

注意: 「無料で売り手を支援する」という形式のM&Aサービスを利用する場合、誰から報酬を得ているのか、仲介なのか、買い手側アドバイザーなのか、利益相反がないかを必ず確認してください。 価格交渉では、支援者の立場が結果に大きく影響することがあります。

6. DCF法で見る、将来キャッシュフローの価値

DCF法とは、将来会社が生み出すキャッシュフローを、現在価値に割り引いて企業価値を算定する方法です。 成長企業M&Aや資本提携では、将来の事業成長を評価するうえで重要な考え方になります。

DCF法の基本は、次の考え方です。 将来受け取る100万円は、現在の100万円と同じ価値ではありません。 時間、リスク、資本コストを考慮して、将来のキャッシュフローを現在の価値に引き直します。

DCF法の基本式:
事業価値 = 将来キャッシュフロー ÷(1+割引率) の合計
実務では、一定期間のキャッシュフローと、最終年度以降の継続価値を組み合わせて算定します。

DCF法で重要なのは、計算式そのものよりも、その前提です。 事業計画が甘ければ、価値は過大に出ます。 割引率が低すぎれば、価値は高く出すぎます。 成長率を過大に見れば、投資家から厳しく指摘されます。

  • 売上成長率に根拠があるか
  • 粗利率・営業利益率が現実的か
  • 人件費、広告費、設備投資、運転資金を織り込んでいるか
  • 主要顧客の維持可能性を説明できるか
  • 買い手企業とのシナジーを数値化できるか
  • 割引率に事業リスクを反映しているか
  • PMI後の成長計画を説明できるか

なお、割引率は一般に、資本コストや事業リスクを反映して設定されます。 元原稿では、中小企業向けに簡略化したWACCの考え方が紹介されていましたが、実務上は、自己資本コストをゼロと置くような単純化は慎重に扱う必要があります。

非上場会社であっても、投資家はリスクに見合うリターンを求めます。 そのため、DCF法では、事業リスク、財務リスク、規模リスク、流動性リスク、経営者依存度、顧客集中リスクなどを考慮して、専門家と割引率を検討する必要があります。

7. 投資家・買い手が見るのは、価格ではなく投資回収である

売り手や投資を受ける企業は、「自社はいくらで評価されるか」に強い関心を持ちます。 しかし、買い手企業や投資家が見ているのは、単なる価格ではありません。

買い手が見ているのは、その投資額を何年で回収できるか、買収後にどれだけ利益を増やせるか、どのようなシナジーを出せるか、リスクに見合ったリターンがあるかです。

投資額 買収価格、増資払込額、追加投資、PMI費用を含めて考えます。
正常収益力 営業利益、EBITDA、オーナー経費、一時費用を調整して見ます。
投資回収期間 投資額を何年で回収できるかを検討します。
シナジー 販路、信用力、人材、仕入、IT、管理体制により価値を高められるかを見ます。

したがって、高いバリュエーションを得たい企業は、単に「高く買ってほしい」と主張するのではなく、買い手が投資回収できる理由を示さなければなりません。

具体的には、事業計画、収益改善余地、顧客基盤、組織体制、競争優位、買い手とのシナジー、PMI後の成長ストーリーを準備することが重要です。

8. 成長企業M&Aでは、企業価値を高めてから資本提携に臨む

成長企業M&Aでは、会社を今すぐ売却することだけが目的ではありません。 外部資本、信用力、販路、人材、経営管理体制を取り込み、会社をさらに成長させることが目的です。

そのため、成長企業M&Aで重要なのは、現在の企業価値を知ることに加えて、企業価値を高めるための準備を行うことです。

収益力を整える

EBITDA、営業利益、正常収益力を把握し、オーナー経費や一時費用を整理します。

成長戦略を示す

投資資金を何に使い、どのように売上・利益を伸ばすかを説明します。

投資家目線を持つ

投資回収、シナジー、リスク、PMI後の価値向上を具体的に示します。

自社の企業価値を正しく理解すれば、安売りを避けることができます。 逆に、根拠のない高値に固執して、買い手や投資家との交渉を壊すことも避けられます。

バリュエーションは、M&A交渉のための数字であると同時に、経営者が自社の課題を知るための診断書でもあります。 会社の価値を高めたい経営者は、まず自社がどのように評価されるのかを知るところから始めるべきです。

会社の値段は、過去の決算だけで決まりません。
買い手が信じられる未来を、経営者がどれだけ具体的に示せるかで変わります。

成長企業M&Aサービスのご紹介

強い成長を目指す企業と、投資によって新規事業参入を目指す企業を、資本提携・M&Aの手法で結びます

成長企業M&Aアドバイザリー

成長企業M&Aとは、成長期にあるベンチャー企業・中小企業と、投資企業・事業会社を結び、企業の飛躍的成長を実現するために、M&A、資本提携、マイナー出資、第三者割当増資、事業提携などを組み合わせる手法です。

URVグローバルグループは、単なる売却・買収の仲介ではなく、企業価値評価、資本政策、成長戦略、投資家候補探索、DD、PMIまでを見据えたM&Aアドバイザリーを提供します。

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本稿の著者

松本尚典

URVグローバルグループ 最高経営責任者 兼 CEO
株式会社URVプランニングサポーターズ 代表取締役 兼 エグゼクティブコンサルタント

松本 尚典

  • 米国公認会計士
  • 一般財団法人M&Aアドバイザー協会認定M&Aアドバイザー

日本の大手銀行、ニューヨーク・ウォール街での金融系コンサルティング業務を経て、日本国内の大手企業数社で役員を歴任。 M&A大国である米国において、クロスボーダーM&AやTOB案件に関与し、日本国内でも投資企業側の責任者として複数のM&A案件を推進してきた実務経験を有する。

2015年に、URVグローバルグループのホールディング会社であり、経営支援事業を本業とする株式会社URVプランニングサポーターズを設立。 多くの中小企業経営者の経営顧問・監査役として、成長戦略、資本政策、M&A、PMIに関わる。

投資企業側の事情と、投資を受ける成長企業側の事情の双方に精通する経験を活かし、成長企業への投資・資本提携に特化した成長企業M&Aアドバイザリーを展開している。

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